『わたしの腰痛物語』第四話
わたしの腰痛物語
第四話
break the world ~絶望と欲望~
2012年3月末花粉症と思われる症状に襲われる。
この時すでに、どんな体勢でくしゃみをすると、腰への衝撃が一番小さいかを認識していたため、立っているときなら、壁に手をつき、軽く膝を曲げ腰を軽く落とす。数字の5のような姿勢でくしゃみをする。床に座っているときや、ねっころがっているときは、急いで四つん這いになり、軽く身体を丸める。
そうでもしなければくしゃみをしたあと何秒も痛みで苦しむことになる。
といっても、その体勢をとっても痛みがゼロになるわけではないが。
そうやって衝撃を逃がして、腰が治るのを待っていた。
しかしどうにもならない場面がやって来た。
食事中だ。
わたしの家では食事はリビングのテーブルで、皆床に座り食べていた。いわゆる茶の間スタイルだ。
ひとくちでパクッと食べられるものなら、いつも通り、くしゃみが出そうと感じた時点で例の体勢になって構えればよいのだが、あの時は無理だった。
私は朝食に暖かいそうめんをすすっていた。
私は重度の猫舌で、熱々の汁からレンゲに箸で持ち上げた麺の下半分ほどをのせる。
この時重要なのが、しっかりスープを切ること。
でなければいくら「ふーふー」と息を吹き掛けても冷めにくいからだ。
そして麺の温度を唇で計り、すすり始めたそのときだ。
「あ、やば!」
鼻のずっと奥、むずむずとくしゃみの予兆を感じた。
瞬間、私はいくつものパターンを考えた。たとえば
口にはいったぶんだけのところで噛みきり、麺をレンゲに戻す。急いでそしゃくし飲み込む、そしてあの体勢へ。これは間に合わない。
一気にすすってしまって麺は口の中へ。これはくしゃみで手のひらへリバースしかねない。
口には入れたがすべて吐き出しあの体勢へ。これなら間に合う。
間に合うが、あまりにも汚い。特に母はこういったことをひどく嫌う。
たとえばグルメ番組でタレントがラーメンを食べている映像を想像してほしい。コメントするためとはいえ、麺を口に運び、軽くすすり、噛みきり、噛みきられた麺は汁へ戻る。
こんな映像が流れようものなら非常に機嫌が悪くなる。
つまり、一瞬で考えた方法はすべて、汚いというネックがあった。
・・・そしてわたしは麺が半分口にはいったまま口元を隠し、麺を噛みきることなくくしゃみをした。
そしてわたしは短期間で2度目の、そして前回よりも重度のぎっくり腰になった。
食事を終え、皿すら重く感じるほどの腰痛に耐え、流し台へ運び、水を入れる。
例によって担任教師にメールし、部屋に戻る。
今日はおとなしく寝ていよう。
「まさーごはーん」
気がつくともうお昼のようだった。母が呼んでいる声がした。
わたしの部屋は離れにあったため、食事ができると大声でお呼びがかかる。
さっき食べたばかりでお腹空いていないが、ひとまずリビングへ行こうと起き上がろうとするが、起き上がれない。
わたしは仰向けに寝ていた。
起き上がるためにまず横向きになりたいが、横を向こうとすれば感じたことのないレベルの痛みが走ったのだ。
そんなとき私が最初に思い浮かべたのは子供の時からの夢と、数日前に二者面談で担任教師と交わした言葉だ
「お前腰弱くて腰痛持ちで、トラックの運転手なんてできんのかよ、就職できないんじゃないか」
「気合いでなんとかしますよ」
これはトラックの運転手どころか仕事することすらままならないのではないか。
そんなことを考えながらなんとか最小限の痛みで起き上がれないかと、思考していた。
つづく
第五話